物流の「2024年問題」<前編> 荷主企業にできること

2024/12/16 #人手不足,#生産性向上,#物流

2024年4月、トラックドライバーの労働規制が強化されました。上限規制が猶予されていた時間外労働が年960時間までとなり、「人手不足によりこれまでのようにモノを運べなくなるのではないか」との懸念が高まっています。物流の「2024年問題」です。実際、現場では「ドライバーが足りない」との声をよく耳にするようになりました。物流企業、荷主企業ともに、従来のやり方を改めて見直す必要があるかもしれません。長年消費財メーカーの物流に携わり、現在はLogistics研究所ARAKIで所長を務める荒木協和(やすかず)氏にうかがいました。

物流企業の急増とドライバーの厳しい労働環境

物流の「2024年問題」が叫ばれるなかで、供給力=輸送力の不足が顕在化しています。ドライバーやトラックが足りず、苦労している荷主企業は少なくないはずです。物流危機ともいえる状況ですが、背景には長年にわたる「ツケ」がありそうです。
1990年の『物流2法(貨物自動車運送事業法・貨物運送取扱事業法)』による規制緩和を受けて、物流企業が急増しました。1989年に4万社弱だった貨物自動車運送事業者数は2004年に6万社を超え、現在でも6万社台です。さらにそれと同時期に日本のバブルが崩壊し、仕事が激減したことで競争は激化。物流企業間で値引きと過剰サービスの競争も激しくなりました。「物流会社の主要なコストはトラック関連費用とドライバー人件費です。前者のコスト削減には限界があるので、ドライバーの人件費が下がりました。その結果、他の仕事と比べると賃金は1割少なく(2018年までは2割少なかった)、労働時間は2割多い。それが平均的なドライバーの実情です」とLogistics研究所ARAKIの荒木協和氏は指摘します。

  • 物流2法 貨物輸送の規制緩和の一環として制定されたもので、それまでの免許制が許可制になり、運賃も認可制から事前届け出制になり、異なる2つ以上の輸送手段を組み合わせる複合一貫輸送に対応した。

物流企業を取り巻く厳しい環境は値下げだけでなく、サービスの競争も促しました。積み込み前の仕分けや荷下ろし時の分類や棚入れなど、付随的な業務がドライバーに求められるようになったのです。荷主から「これもやってほしい」といわれれば、仕事を取りたい物流会社は承諾せざるを得ません。新規顧客を獲得したいときには、「ウチは全部やります」と申し出るケースさえあったかもしれません。
このようにして仕事の負荷が増えれば、ドライバーの数は当然減ります。経済産業省の「第1回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」の資料によると、1995年には98.0万人だったトラックドライバー数は20年後の2015年には76.7万人になりました。現状のままの給与水準と労働時間だと、2030年には約52万人になると予測されています。そこで政府は2024年に労働時間規制を強化することでドライバーの減少を止めようと試みましたが、限られたドライバー数で労働時間が短くなったため、前出の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の試算によれば、さらに人手不足が約14%増加し、このままでは約34%の荷物が運べなくなります。

政府はドライバーの待遇改善を後押しするが

労働規制を強化する一方で、政府はドライバーの賃金上昇を後押しする姿勢を見せています。2020年、国土交通省はまずは期間限定で「標準的な運賃」を定めました。
「運賃の強制はできないので、あくまでも推奨ですが、国交省は下請けの現状を調査し是正する『トラックGメン』や、中小企業が匿名で情報提供や荷主の相談が出来る窓口を設置し、優位的立場を利用した値段交渉やサービス強制の取り締まりを強化しています。2022年以降は、公正取引委員会が、物流企業の値上げ要請に応じなかった企業の社名を公表しています」(荒木氏)
こうした政府の動きもあり、5~10%程度の値上げに成功した物流企業が多いようです。「ただし荷主企業が値上げに応じた場合でも、荷物の量を何割か減らされたケースがあります。一方、荷物の量を増やしたい物流企業は、『値上げしません』と宣言することもあるでしょう」と荒木氏は話します。
いろいろと紆余曲折はあるにせよ、いずれにしても、メーカーや流通などの荷主企業にとって運賃の上昇は避けられない問題と言えるでしょう。そこで、運賃の値上げを受け入れつつ、物流コストの増大をいかに抑えるかが荷主企業にとっての課題になります。キーワードは「平準化」です。以下、荷主企業の視点で物流の改革について考えてみましょう。

平準化して全体の稼働率を高める

荷物の量は、毎日同じというわけではありません。例えば、ゴールデンウィークやお盆、年末年始などは荷主(メーカー)が長期休暇に入るため、顧客(卸や販売店など)は休み分の量を見込んで事前に注文します。土日もメーカーは休みですが流通は営業しているため、金曜日の出荷も相当の量になります。また、休み前だけでなく、メーカー決算前にも駆け込み受注への対応で同じことが起こります。
このような出荷の凸凹は「出荷波動」と呼ばれます。
「突出した出荷量によりトラックは不足しますし、受け入れ側の物流センターが混むためドライバーの待機時間も増え、物流コストも上昇します」と荒木氏は説明します。また突出した出荷タイミングに合わせて物流体制を組んでしまうと、今度は平常時に稼働率が落ちてしまいます。「こうした状況を見直し、出荷波動を極力抑えて平準化する必要があります」と荒木氏は提言します。

方法の1つとして土曜・祭日を営業日として業務を平準化した場合、突出をなくすことはできないものの波動が穏やかになることが、シミュレーションの結果わかっています。平準化が進めばトラックやドライバー、倉庫施設などの稼働率は上がり、生産性が高まります。平準化に向けた取り組みは、荷主企業を起点とした社会的な課題解決の一歩といえそうです。
「倉庫スタッフやドライバーのなかには、土曜・祭日に働くのを望まない人もいるでしょう。また、今の状況で強引に実行すれば、ドライバーの休みが取れなくなります。ただ、平準化すれば極端な忙しさからは解放されるはずです。工夫次第で、休みも取りやすくなるかもしれません」(荒木氏)
平準化はドライバーの賃金にも好影響を与えます。出荷波動が大きくなる時期は、倉庫だけでなく道路も混みます。普段は1日2往復できる場所でも、1往復しかできなくなります。ドライバーが2往復できれば、運賃単価が同じなら売り上げは2倍です。それはドライバーの運賃に反映されるでしょう。
一方、トラックを受け入れる卸売業者の倉庫では、どのようなことが起きているでしょうか。荒木氏が指摘したように、トラックの待機時間は大きな問題です。ある倉庫の場合、平均待機時間は30分なのに、搬入量が多くなると待機時間が2時間を超えることもあるそうです。トラックが荷下ろしするバース周辺を片付けないと、次のトラックが入れないためです。
「メーカーなどの発荷主が出荷波動を抑え、平準化を進めれば、着荷主の倉庫の混雑は緩和され、倉庫の業務平準化にもつながります」と荒木氏は語ります。

発荷主だけではなく、着荷主にもできることがあります。
「着荷主は納品時間やリードタイムの延長を検討してはどうでしょうか。サービスレベルは低下しますが、倉庫側の工夫で対応できるかもしれません」(荒木氏)
例えば、午前だけ荷受けしていた倉庫が、午後も対応するようにすれば、ドライバーは1往復から2往復に輸送回数を増やせるかもしれません。あるいは、着荷主の求める現在のリードタイムが発注後24時間以内というのであれば、48時間以内にルールを変更するという手もあります。
リードタイムが長くなれば、ドライバーやトラックの手配はラクになりますし、生産性向上にもつながるでしょう。「物流危機」に向き合うには、物流企業だけでなく、荷主企業の理解と協力は不可欠です。
物流機能の供給力不足の傾向はまだまだ続くと考えられるいま、顧客として要求だけを続ける荷主企業は、やがては物流企業からも見放されてしまうかもしれません。発・着荷主企業が連携してできることは少なくありません。

(取材・文:津田浩司/監修:Logistics研究所ARAKI 所長 荒木協和)

後編では、物流危機を克服するためのアプローチについて考えます。

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