岸田政権の成長戦略を後押し!
「令和5年度税制改正大綱」で法人税はどう変わる?

2023/2/ 2 #税務

2022年12月16日、自民・公明両党は「令和5年度税制改正大綱」を発表しました。今回の改正では「マーケット」「産業」「人材」への成長投資を一体的に強化し、岸田政権の看板政策である「成長と分配の好循環」の創出につなげたい意向です。
さらに、「国際課税制度の見直しに係る国際合意」に沿ったグローバル・ミニマム課税の導入、少子高齢化に伴う人口減少など国内の構造変化・国際経済や安全保障など外的要因を踏まえた既存税制の見直し、新制度の創設など盛りだくさんな内容となっています。
ロシアのウクライナ侵攻や朝鮮半島問題などを踏まえ焦点となっていた防衛費増額の財源問題については、2027年度に1兆円を確保するために法人税・たばこ税・所得税の増税を行うことが明記されました。法人税は本来の税率を変えず、納税額に対して4~4.5%を上乗せする形です。ただし、所得2,400万円以下の中小企業は対象とならず、増税されるのは全法人の6%弱と見られています。

研究開発税制を強化し3年間延長

2000年から2019年にかけての先進国の官民合わせた研究投資額の伸びは、米国の1.7倍を筆頭にドイツ、英国などが続いていますが、日本はほぼ横ばいです。政府は国際競争力の確保に向けて科学技術分野を中心とした研究開発投資の拡大をめざし、今回の改正の目玉の1つとして「研究開発税制」を強化しています。
研究開発税制とは、研究投資額の増減に応じて法人税から一定額が控除されるもの。現行の控除率は過去3年間の平均投資額が変わらなければ8.5%とし、投資額に応じて2~14%の間で上下する形です。適用期限を2026年3月末まで延長するに当たり、この下限を2%から1%に引き下げ、研究開発に消極的な企業への減税幅を縮小します。
また、2023年4月1日から2026年3月31日までの間にスタートする各事業年度の控除税額の上限については、増減試験研究費の割合が4%を超える部分は1%につき当期の法人税額の0.625%を加算し、増減試験研究費の割合がマイナス4%を下回る部分は1%につき当期の法人税額の0.625%を減算する(共に5%を上限とする)特例を設けることになりました。
さらに、「人への投資」に前向きな企業への支援策として特別試験研究費の対象に博士号取得者または一定の研究業務の経験を有する者に対する人件費を追加し、税額控除率を 20%とします。

発行法人以外から購入も「特定株式」に

大企業が1億円以上(中小企業は1,000万円以上)を非上場ベンチャー企業に出資すると、特定株式取得価額の25%を出資した企業の課税所得から控除し、法人税を軽減する「オープンイノベーション促進税制」の見直しも行われます。発行法人以外からの購入で取得した株式でも、その取得により総株主の議決権の過半数を有した場合は税制の対象となる特定株式に加えることになりました。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル投資に3%あるいは5%の税額控除または特別償却30%が適用できる「DX投資促進税制」は、2023年3月末が期限となっています。こちらは適用要件の「生産性の向上」「新需要の開拓」を売上高が10%以上増加すると見込まれること、「前向きな取組」を対象事業の海外売上高比率が一定以上になること――に変更した上で2年間延長されます。

生産性の向上をめざす中小企業を支援

さて、長引くコロナ禍に加え国際的なインフレや歴史的な円安により収益環境の悪化が懸念されているのが中小企業です。今回の改正には逆風下で生産性の向上をめざす中小企業への支援策も盛り込まれました。
中小企業等経営強化法の認定を受けた計画に基づく設備投資について即時償却または10%の税額控除(資本金3,000万円以下)が適用できる「中小企業経営強化税制」は、2023年3月末までの期限を2年間延長します。また、一定の設備投資を行った中小企業に7%の税額控除(同)もしくは30%の特別償却を認める「中小企業投資促進税制」も、同様に2025年3月末まで延長されます。共に対象資産の除外要件などが追加されており、2023年度以降に適用の際は注意が必要です。
2023年度末が期限となっていた「中小企業技術基盤強化税制」も一部を見直した上で3年間延長になります。これは、中小企業が試験研究費の一定割合を法人税から控除できる制度ですが、控除上限の上乗せ対象を増減試験研究費割合が9.4%超から12%超とし、さらに、オープンイノベーション型におけるスタートアップの定義や試験研究費の範囲を見直し、高度・外部研究人材の活用を促す措置を創設していきます。
所得800万円以下を対象とした中小企業の法人税率軽減(19%→15%)の特例も、2025年3月末まで延長となります。

「買換えの場合等の特例」も延長が決定

事業用に不動産の買換えを行い譲渡益が出た際、利益にかかる税金を繰り延べることができる「特定の資産の買換えの場合等の特例」も、適用対象などを見直した上で2026年3月末まで延長されます。
10年を超える長期所有の土地・建物から国内の土地・建物への買換えは、本社の場合だけ繰り延べ率が変わります。東京都の特別区から地域再生法の集中地域以外への移転を現行の80%から90%に引き上げて優遇する一方、集中地域以外から東京都の特別区への移転は同70%から60%に引き下げるなど、メリハリを付けた改正内容となっています。

グローバル・ミニマム課税を導入

国際的な法人税引き下げ競争に歯止めをかけようと、2021年には低課税国に所在する多国籍企業などの法人の税負担を実効税率15%まで追徴可能とする「グローバル・ミニマム課税」の国際合意がなされました。これに伴い、グローバル企業の法人税負担の最低税率を15%とする制度が2024年度から導入されます。2024年4月以降に始まる会計年度において、直前の4会計年度のうち2会計年度以上の売上高が7億5,000万ユーロ以上の企業(公共法人を除く)が該当し、法人税負担が15%を下回る国では、不足分を本国が上乗せして課税できます。制度の導入に合わせ、情報申告制度も創設される予定です。売上高7億5,000万ユーロ以上に該当する企業は世界で1万社超、日本で860社超あり、日本の企業では主にアジアに工場を持つなど海外展開する製造業大手が新制度の対象となりそうです。

グループ通算制度の
申告書提出期限に配慮

「連結納税制度」が見直され、2022年度以降はグループ内の法人がそれぞれ法人税額を計算して申告を行った上で損益通算などの調整を行う「グループ通算制度」へと移行しています。これに関して、子会社の残余財産の確定日が親会社の事業年度の終了日だった場合、その子会社の法人税や地方法人税の確定申告書の提出期限は、事業年度の終了日の翌日から2カ月以内になります。また、親会社が確定申告書の提出期限延長の特例の適用を受けていれば、その子会社の残余財産の確定日が属する事業年度についても提出期限延長の特例が適用されるものと見なされます。この見直しは2023年4月1日以降に現行の提出期限を迎える確定申告書から適用され、地方税も同様の扱いとなります。

猶予期限が迫る改正電子帳簿法の
見直しも

2年間の猶予期間の期限が2024年1月に迫っている改正電子帳簿保存法についても、見直しが行われています。残り1年ではシステム対応が間に合わないなど相当の理由のある事業者に対しては、新たな猶予措置を設けます。また、データを指定の形で検索できるように保存する必要があった「電子データで受け取った書類の保存義務」は事務負担が大き過ぎるとの声も上がっていることから緩和措置を講じる予定です。
近年は社会情勢や構造の変化に応じて規定が細分化・専門化し、グローバルな対応を迫られる場合もあります。改正内容や対応に疑問を感じたら、早めに税理士などの専門家に相談するといいでしょう。

(取材・文:森田聡子/監修:税理士法人おおたか 税理士 深津栄一、市川康明)

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