ものづくりは人づくり 世界で競争力を付けるために取り組むべきこと

2020/6/15 #ものづくり,#AI,#人づくり

デジタル化が進む世界のものづくりの中で競争力を失いつつあると言われている日本の製造業ですが、どうすれば再び、世界を相手にした競争力を身に付けられるのでしょうか。長年、日本のメーカーに対して技術・経営の両面でコンサルティング支援をしてきた日本能率協会コンサルティングの石田秀夫氏(同社 生産コンサルティング事業本部長/シニア・コンサルタント)と今井一義氏(同 生産コンサルティング事業副本部長 /シニア・コンサルタント)に、日本のものづくりの現状と課題、生き残りの方策を聞きました。

世界を見渡したうえでの日本のものづくり(産業・技術)の現状とは?

世界のものづくりはデジタル化が進み、単に何かをつくるだけでは収益が上がらない状況になっています。このデジタル化という観点で日本は後れを取っています。これまで強かった現場のカイゼンの力や品質を上げる力も弱くなっているのが実態です。現場に力があるとフィードバック効果や押し上げ効果によって全体のレベルが上がりますが、一度弱まってしまうと押し上げ効果がなくなり、設備やラインなど生産技術や製品設計のレベルが下がるという連鎖が起きてしまいがちです。

昨今は大きな会社ほど、いろいろなことを外部に任せています。力のある会社は自ら生産設備の仕様やつくり方を考えますが、設備のインテグレーター、設備メーカーに任せる会社は増え、その結果、生産技術部門や現場に力が残らず、だんだん新しいつくり方の創造ができなくなってきているのです。

IoTやAIは、製造業に変革をもたらすのか?

IoTやAIはすでにものづくりの工程の一部に取り込まれつつあります。ドイツにおいて政府主導の下、進められている「インダストリー4.0」がその好例です。これは、アナログ的なもの、例えば匠のワザのようなものをロジック化し、デジタル化、データ化して有効活用することが基本。技術やノウハウがデジタル化されて共通のインターフェースを持つ製造装置やラインの設備に組み込まれ、これらがネットワークで結ばれるのがインダストリー4.0の考えです。ただ、それが広く進むと、標準化が進み、みんなが同じレベルになることを示唆します。

実は、そこからが大切で、デジタル化したものをどう使って新しいものを創造するか。そこには人の知恵が欠かせません。AIの力を借りるという話もありますが、今のAIは与えられた変数の中で最適化することはできても、新たなパラメーターの項目や要素は生めません。ある意味アートな力が必要なのです。高いレベルの匠や技術者が持つ力をいかにデジタル化していくか。そういう匠たちがいるうちは競争優位に立てる可能性があります。

匠のワザや技術をデジタル化するには?

まずは映像で残すことが肝心。そして、なぜその作業を行うのかというロジックと意味を残す。あとは定量化です。デジタルカメラで撮影するだけでもよいと思います。次はうまく残すためのカン・コツの論理化・定量化を考えなくてはなりません。

ものづくりの高技能者がやっていることはサイエンスであり、全部数値に置き換えられるはずです。ただ、感覚的に学んできた人たちが多いので、彼らの言葉を“翻訳”することが必要です。また、すべてをデジタル化することは労力的に難しいので、まずはコアである戦略技能にターゲットを絞ることが大切でしょう。

日本が世界を相手に勝つことはできる?

可能性はゼロではありません。自ら考えて動けるよう人材育成をしてきた企業にはまだ力が残っています。

コツコツと性能を高めることは大事ですが、機能を一新したり大きなコストダウンをしたりなど大きな成果を得られるのは、新しいものや方式を見つけたときです。粛々と鍛錬し考える力を強めてきた企業は、開発力や技術力もあるため、チャンスもあります。

その一例を挙げてみましょう。あるメーカーでは、排気量が異なる製品を複数つくっています。一般的には、排気量ごとに別の製造ラインを設けますが、そこでは一括で開発設計して同じ生産ラインに流しています。これまでの技術からすれば超非常識なことをやっているのです。それも工程と設計の構造をどうするかというゼロベースから考えるところから始まりました。そのようなあるべき姿から考え抜き、実行できる企業が日本にはまだあるのです。

新しい技術も構造も戦略も、つくるのは人です。行き着くところは人の鍛錬と挑戦であり、考える人のレベルアップを図るための投資なのです。並行して、前述した押し上げ効果が出るように現場の問題を抽出する力とカイゼン(=現場力)のレベルを上げていく必要があります。

日本が逆転するためには何が課題?

ものづくりのデジタル化でいえば、現在は第1フェーズ、つまりデータ化、AI利用が進展していくところです。第2フェーズはこの応用が進みます。そして第3フェーズではそれらやさまざまな知識とデータがつながっていくでしょう。

推測を含めて言うと、第1フェーズで日本のメーカーは出遅れました。ここではいろいろなブレイクスルーと標準化が必要ですが、日本はまだ途中の段階です。次のフェーズでは、標準化がある程度進んだ土俵上で何をどう応用・活用するかが課題といえるでしょう。応用・活用は日本の得意分野ですから、まだ十分に勝機は残っていて、今日本のメーカーはそこをターゲットにしている企業が多いようです。肝心なのは、ビジネスをスピーディーに成功させるために他社の強みを活用するネットワークと、万一ビジネスで失敗をしても、次に向けた方向転換力としなやかさなのです。

中小企業が生き残るために必要なこととは?

自ら考え、挑戦すること。この一言に尽きるでしょう。

誤解を恐れずに言えば、確かな技術を持ちつつ、経営革新を行っている中小企業は全体の2割くらいではないでしょうか。

自分の技術や強みを磨くと同時に、欠かせないことは経営としての生産性の向上です。中小企業では、各自が小さな規模でいろいろな機能や工程を保有しており、それらがうまくつながっておらず、その結果、非効率で生産性が低いケースをよく見かけます。

特に設備や研究開発に投資していない企業や、独自性がなく昔ながらの技術や一般レベルの古い加工機を使っている企業は淘汰されてしまう危険があります。ですから一部の機能を地域のスモールネットワークの中でシェアリングしていくような経営効率を高める仕組みが重要です。すべてを自前でやる必要はありません。共同で研究開発のラボを持ったり、事務的な業務をシェアしたりすることで、地域での生産性・収益性はもっと上がります。

日本のものづくりの将来を明るくするカギは、「将来に対する投資」「投資を生かす戦略」「人のレベルアップ」です。特に大切なのがこの3つ目で、中小企業は、経営者、管理者、現場の各層で考える力と挑戦する力を上げることが肝要です。

加えて経営の度量が必要だと思います。統合基幹業務システム(ERP)などのデジタルツールを入れることは助けにはなりますが、使いこなせなければ意味はありません。そのためにもブレイクスルーレベルで考えられる人、さらに工夫できる人を育てること(中長期での人財への投資)が大切なのです。知恵と挑戦のレベルで会社の強さは決まると思います。

(取材・文:髙山和良/監修:日本能率協会コンサルティング 生産コンサルティング事業本部長/シニア・コンサルタント 石田秀夫、生産コンサルティング事業副本部長 /シニア・コンサルタント 今井一義)

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