
2021年12月10日、自民・公明両党は「令和4年度税制改正大綱」を決定しました。岸田文雄政権下で初となる今回の税制改正の目玉は、「成長と分配の好循環」を目指す首相肝いりの「賃上げ税制」です。従業員の賃金総額を増やした企業を対象に法人税の控除率を上げる一方で、賃上げに消極的な企業には一部の投資減税を適用しないなどペナルティも設置し、実効性を高めようとしています。
一方、論点となっていた二酸化炭素の排出量に応じて課税する「炭素税」の本格導入や、株式の売却益等への金融課税の強化、贈与税と相続税の一体課税などは先送りされました。
賃上げに前向きな企業の法人税を優遇
大企業向けの所得拡大促進税制では、継続雇用者の給与総額を増加させた企業は、雇用者給与等支給増加額の最大30%を法人税から控除できるようになりました。ただし、資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の企業では適用を受ける前提として、株主や従業員、取引先など多様なステークホルダーに配慮した経営への取り組みを宣言する必要があります。
全雇用者の給与総額を増やした中小企業も、雇用者給与等支給増加額の最大40%を法人税から控除できるようになります。なお、控除率を最大化するには大企業、中小企業ともに賃上げに加えて従業員の教育訓練費を増やしている必要があります(下図参照)。
所得拡大促進税制の適用要件
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■大企業(資本金1億円超の企業等)
対象施策 | 要件(増加幅) | 優遇措置 |
---|---|---|
継続雇用者の 給与やボーナスの総額 |
前年度比+3%以上 | 給与等支給額の増加額の15%を税額控除 |
前年度比+4%以上 | 上記に加え控除率を10%上乗せ | |
従業員の教育訓練費 | 前年度比+20%以上 | 上記に加え控除率を5%上乗せ |
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■中小企業(資本金1億円以下の企業等)
対象施策 | 要件(増加幅) | 優遇措置 |
---|---|---|
雇用者全体の 給与やボーナスの総額 |
前年度比+1.5%以上 | 給与等支給額の増加額の15%を税額控除 |
前年度比+2.5%以上 | 上記に加え控除率を15%上乗せ | |
従業員の教育訓練費 | 前年度比+10%以上 | 上記に加え控除率を10%上乗せ |
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あわせて、賃上げ税制には法人税の税額控除という“アメ”の施策だけでなく、賃上げに消極的な企業への“ムチ”の施策も盛り込まれました。継続雇用者の給与総額を2022年度は前年度比で0.5%以上、2023年度は同1%以上増やさなかった資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の企業は、研究開発費など投資額の一部を法人税額から差し引ける優遇措置(特定税額控除規定)が受けられません。新しい所得拡大促進税制は、2022年4月1日~2024年3月31日に始まる事業年度から適用されます。
オープンイノベーション税制は
要件を緩和し延長
大企業が1億円以上(中小企業は1000万円以上)を非上場ベンチャー企業に出資すれば、特定株式取得価額の25%を出資した企業の課税所得から控除し法人税を軽減するオープンイノベーション税制は、適用される出資の期限が2年間延長され、2024年3月末までとなりました。
同時に、適用の要件も緩和されています。出資を受け入れる企業の要件は設立10年未満の非上場企業でしたが、これが同15年未満(売上高に占める研究開発費の割合が10%以上の赤字会社の場合)となります。出資する企業に求められる特定株式の保有期間も、5年以上から3年以上に短縮されました。
2020年度には企業の内部留保が過去最高の484兆円超となるなど、投資余力があるにもかかわらず十分に活用されていない現状を鑑み、大企業に行動変容を促す改正内容となっています。
5G促進税制は3年間延長も段階的に縮小
通信の高速大容量規格「5G」の関連投資を促進する税制も、2024年度まで3年間延長することが決まりました。これは、企業の設備投資に対して①30%の特別償却、②15%の税額控除(法人税額×20%が上限)――のいずれかを選択して適用できるというものです。
ただし、税制優遇の対象は都市部では高度な基地局などに絞り込まれ、控除率は2022年度が9%、2023年度が5%、2024年度が3%と段階的に引き下げられていきます。背景には、投資の前倒しを促し、5Gネットワークの構築を急ぐ狙いがあります。
これに対し、地方や、地域や産業のニーズに応じて企業や自治体が独自に設置できるローカル5Gの控除率は、2022年度が15%現状維持、2023年度が9%、2024年度が3%と、都市部に比べて手厚い内容となっています。
「地方拠点強化税制」は実態に即した
見直しを行い2年間延長
コロナ禍で企業の地方移転に対する関心が高まっています。そこで、平成27年度改正から導入されている「地方拠点強化税制」についても、地方に移転する企業の実態を踏まえた見直しを行ったうえで、期限を2024年3月31日まで2年間延長しました。
この税制は、東京23区内に本社を置く企業が本社機能を地方へ移転する場合(移転型)や、地方の企業が本社機能の強化を行う場合(拡充型)に、建物等の取得価額や雇用者の増加数に応じた法人税の優遇措置が受けられるというものです。
建物等の取得価額を対象としたオフィス減税は①25%の特別償却(拡充型は15%)、②7%の税額控除(拡充型は4%、いずれも法人税額×20%が上限)――のいずれかを選択して適用できます。新たに雇い入れた従業員等を対象とした雇用促進税制では、新規雇用者1人につき90万円(拡充型は同30万円)、転勤者1人につき80万円(拡充型は同20万円)を税額控除できます。
今回の改正では、建物等の取得価額の要件が2000万円から2500万円に引き上げられた一方(中小企業を除く)、雇用者増加要件が撤廃され、対象施設に情報サービス事業部門が追加されています。
なお、優遇措置を受けるには、移転・拡充先となる都道府県の知事に対して「地方活力向上地域等特定業務施設整備計画」を申請し認定される必要があります。
「グループ通算制度」への
移行に伴う改正も
「連結納税制度」が見直され、2022年度からはグループ内の各法人がそれぞれ法人税額を計算して申告を行ったうえで損益通算などの調整を行う「グループ通算制度」へと移行されますが、それに伴う改正点もあります。
第一に、通算子法人株式の資産調整勘定等対応金額(通算開始・加入前に時価取得した子法人株式の取得価額のうち、非適格合併を行うとした場合に資産調整勘定または負債調整勘定として計算される金額に相当する額)を、離脱時の子法人投資簿価に加算できるようになります。これは、株式買収によるプレミアム相当分が永久に損金算入できず消滅してしまうといった問題に対応した措置です。
また、通算グループから離脱した子法人が主要な事業を継続することが見込まれていない場合などについては、時価評価の除外資産から帳簿価額1000万円未満の営業権が除かれることとなります。離脱した子法人側では営業権も時価評価することになりますが、その分増加した簿価純資産は親法人の投資簿価修正に反映され、譲渡損益が計上されないことになり、二重課税は回避されます。
また、益金不算入・損金不算入となる通算税効果額から、利子税の額に相当する金額として通算法人間で授受される金額が除外されることになりました。
接待飲食費の特例も2年間延長に
資本金1億円超100億円以下の企業に対する「交際費のうち、1人当たり5000円超の接待飲食費の50%を損金算入できる」特例措置は、適用期限が2年間延長され、2023年度末までとなりました。資本金1億円以下の中小企業が①接待飲食費の総額の半分、②800万円のどちらか多い方での損金算入が可能な特例も、同様に2023年度末まで延長されています。
なお、令和3年度税制改正で発表された改正電子帳簿保存法(2022年1月施行)の中で、「請求書や領収書をPDFなどの電子データで受け取った場合、一定の要件を満たしたうえで電子的に保存することを義務付ける」という項目に関しては、対応が間に合わないなどの声も多いことから、適用が2年間猶予されることになりました。
近年は規定が細分化、専門化する一方で、社会情勢の変化を踏まえて施行が予定通りに進むのかどうか流動的な面もあり、改正内容を正確に把握し、的確な対応をするためには、税理士など専門家の活用を検討すべきでしょう。
(取材・文:森田聡子/監修:税理士法人おおたか 税理士 深津栄一、市川康明)
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