
積み上がる企業の内部留保を投資や
設備投資に
2019年12月12日、令和初の「税制改正大綱」が発表されました。「Society(ソサエティ)5.0の実現に向けたイノベーションの促進など日本経済が中長期的に成長していく基盤構築のためには、企業が内部資金や技術を有効に活用することが求められ、税制においてもこうした企業の前向きな活動を後押ししていく必要がある」との観点から、法人税については年々増大する企業の内部留保をベンチャー投資や次世代通信規格5Gの普及、地方創生などに呼び込むことを目指す優遇税制が軸となります。後継者が見付からない会社を支援するなどの中小企業の経営基盤強化に向けた改正は、今回は見送られました。
2年後から「連結納税制度」は
「グループ通算制度」へ移行
今回改正で注目されるのは、連結納税制度の見直しです。制度としては、連結納税制度からグループ通算制度へ移行することになります。現行の「連結納税制度」は企業グループを一つの納税単位とみなし、親法人が一体申告を行いますが、2022年度からは企業グループ内の各法人がそれぞれ法人税額を計算して個別に申告を行う「グループ通算制度」へと自動的に移行されます。ただし、欠損金などはグループ全体で損益通算を行ったり、研究開発税制など一定のものはグループ全体で税額調整を行うことは維持されます。
現行制度ではグループの1社に修正や更正があると、グループ全体で計算をやり直さなければなりませんが、新制度では修正や更正のあった会社のみ修正すれば済むなど、事務負担が大きく軽減されます。また、事業再編を後押しするため、グループへの加入時の時価評価課税や繰越欠損金の切捨ての対象を縮小するなどの見直しが行われます。一方で、新制度開始時に親会社に多額の繰越欠損金がある場合、現行制度ならグループ全体で控除できるのに対し、新制度では親会社の所得の範囲内での控除に限定されたり、中小法人の判定について現行制度では親法人の資本金が1億円以下であれば軽減税率や欠損金が100%繰越控除できるなどの規定が適用されるのに対し、新制度では通算グループ内全ての法人の資本金が1億円以下でなければ適用されないというデメリットもあります。
グループ通算制度では連結納税制度の規定を引き継ぐ部分もあれば、前述のように大きく変わる部分もあり、結果的に、企業によっては新制度よりも「単体納税制度」を選択する方が有利になる可能性もあります。したがって、連結納税を採用している法人は、移行までの2年の猶予期間のうちに移行するのか、単体納税に復帰するのかを検討したり、現在、連結納税の採用を検討している法人は、旧連結納税制度で開始するのか、グループ通算制度で開始するのかを検討する必要があります。
企業のベンチャー投資に税金優遇制度を
新設
今回の改正では、次世代のイノベーションを担うベンチャー企業への出資について、新たな税制措置として「オープンイノベーション税制」が創設されます。大企業・中小法人が2020年4月から2022年3月末までの間に設立10年未満の非上場ベンチャー企業に1億円以上(中小企業は1000万円以上)を出資し、その特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定として経理した場合には、その経理した金額を損金算入できるものとする制度で、出資した企業の法人税を軽減するというものです。
出資は国内の事業会社とコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)によるものが対象で、投資会社などによる出資は認められません。大企業によるグループ会社への出資も対象外です。
出資企業は自社のリソースやプラットフォームと、ベンチャー企業の技術やノウハウを融合して新分野に進出するなど、事業構造転換の見通しが立っていることが制度適用の条件となります。出資から5年以内に特定株式を譲渡するなどといった特別勘定の取り崩し事由に該当する場合には、特別勘定を取り崩して益金算入しなければならなくなるので、注意が必要です。
5G促進税制は携帯電話事業者以外にも
適用
5Gについては米国や韓国で既にサービスが開始されており、我が国も早期実用化を目指してインフラ整備を進めるべく、2020年度から2年間、促進税制が創設されます。
対象となるのは携帯電話事業者だけでなく、企業が自社工場の敷地内などに独自に地域版5G(ローカル5G)を設けた場合も含まれます。「特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律(仮称)」を制定し、国の審査で安全性の高い適用事業者を認定することになります。この制度は、設備投資に対して、①取得価額の30%の特別償却、②取得価額の15%の税額控除(法人税額×20%が上限)――のいずれか一方を選択して適用し、設備投資した事業者の法人税を軽減するというものです。
企業版ふるさと納税はこれから5年間控除が倍増
自治体の事業に寄付した企業が税の優遇を受けられる「企業版ふるさと納税」は、2016年度に、2019年度までの時限措置としてスタートしました。しかし、2018年度時点で実施自治体は全体の23%、寄付金の総額は約34億7500万円に過ぎず、約5127億円を集めた個人版ふるさと納税に比べると、いまひとつ普及が進んでいません。
そこで、今回の改正では期限を2024年度末まで延長すると同時に、控除を倍増しました。現行制度では寄付額の約3割が損金算入可能なのに加え、別途3割を法人税・法人住民税・法人事業税から税額控除できます。2020年4月から5年間はこの控除が6割に拡大され、実質的には寄付額の約9割分、税負担が軽減されることになります。
資本金100億円超の企業は接待飲食費の
優遇なしに
消費税率が8%に引き上げられた2014年度に経済活性化の目的で導入された、「交際費のうち、1人当たり5,000円超の接待飲食費の50%を損金算入できる」特例措置は、適用が見直されました。資本金100億円超の大企業は、接待飲食費を損金として扱えなくなります。ただし、2021年度末までの2年間、資本金1億円超100億円以下の企業では継続してこの特例が適用できます。また、資本金1億円以下の中小企業については、①接待飲食費の総額の半分、②800万円――のどちらか多い方での損金算入が可能です。
「特定資産の買い換え特例」は3年間延長
特定の事業用資産を同じ事業年度中に買い換え、1年以内に事業用に供した場合は、譲渡益の80%(一定の場合は75%又は70%)相当額までの圧縮記帳が認められる「特定の資産の買い換えの場合等の特例」は、2019年度末の期限が2022年度末まで延長されました。改正は「都市機能誘導区域の内から外への買い換えを適用対象から除外する」など細則に止まり、この4月から3年間は大勢に影響なく適用できます。
子会社配当の益金不算入見直しで
租税回避封じ
2019年には大手企業がグループ内の資本取引により赤字を捻出し、他部門の黒字と相殺して法人税の納税を免れていたことが分かり、メディアなどで大きく報道されました。子会社の中核事業の株式を配当として吸い上げ、企業価値が落ちた後に売却して譲渡額と簿価との差を損失として計上するスキームで、「子会社から受け取った配当は益金不算入」という制度の盲点を突いた形です。
国税庁はこの節税策をいったん「合法」と認めたものの、今回改正で早速、対策を講じています。益金不算入制度を見直し、子会社株式の帳簿簿価の1割を超える配当を受け取ったら、配当分だけ簿価を引き下げることが義務付けられたのです。これにより子会社の売却時に発生する損失が縮小し、前述のスキームを使った意図的な損失の捻出は困難になります。
この措置は、2020年4月1日以後開始事業年度から適用されますが、3月決算法人の場合、3月末が配当基準日の子会社の期末配当について、6月頃受取る配当から適用されます。この改正によって同決算での先の大手企業への追随は封じられました。この例に限らず、租税回避行為への対応の迅速化、厳罰化といった傾向も近年、顕著になりつつあります。
(取材・文:森田聡子/監修:税理士法人おおたか 税理士 深津栄一、税理士法人おおたか 税理士 市川康明)
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