
物流において、トラックドライバーの不足が深刻化するなかで、運送会社だけでなく、発荷主と着荷主もさまざまな対応を迫られています。大きな課題の一つが、ドライバーの待ち時間や荷物の積み下ろし作業です。この負荷を減らすことで、ドライバーの拘束時間を減らし稼働率を高めることができます。それは物流の効率化につながります。2018年に開場した豊洲市場は、物流効率の観点でも先進的な設備を整えています。その豊洲市場で卸売業を展開する東京シティ青果株式会社取締役の藤澤啓氏に、青果物流の現在と課題、めざす方向を聞きました。
築地市場より効率化された豊洲市場
東京の「台所」が築地市場から豊洲市場に移転したのは、2018年10月のことです。敷地面積は23ヘクタールから41ヘクタールへと約1.8倍に拡大しました。屋根があっても外部にほぼ開かれた環境の築地市場に対して、豊洲市場は閉鎖型施設です。空調設備により、四季に関係なく常に一定の気温に保たれており、産地から運ばれた農産物や水産物にも優しい環境が整えられています。
豊洲市場で青果卸売業を行う東京シティ青果株式会社取締役の藤澤啓氏は次のように説明します。
「築地市場ではトラックが卸売場内に入って荷下ろしを行っていました。10トン車が5、6台入れば、次のトラックは市場の外(場外)の道路に並ぶことになります。そのため荷下ろしまで2~3時間待ちは普通のことでした。豊洲ではトラックが卸売場内に入ることはなく、青果棟の東側と南側のバース(トラックが荷物の積み下ろしをするスペース)で荷下ろしをします。待ち時間はほとんどなくなりました」
売場外と売場内の物流を分けることで、ドライバーの待ち時間は大幅に短縮されました。また、社内の物流管制室で管理することによりトラックの到着もスムーズに行われているそうです。
「築地では水産と青果が隣接していたので、魚を積んだトラックと青果物を積んだトラックが同じ場所を行き来していました。それで混雑度が増加した面もあると思います。豊洲では、街区ごとに水産卸売場棟と水産仲卸売場棟、青果棟が分かれています。モノの流れはよりスムーズになりました」と藤澤氏は話します。
「当社では午前10時から荷受け作業をしています。埼玉や千葉といった近県産地からのトラックは、1日で豊洲との間を2往復するケースもあります。待ち時間の長い築地市場時代はドライバーからの評判が悪く、都内でもおそらくワースト3に入るくらいだったと思います。豊洲に移ってからの評判は上々です」(藤澤氏)
1日1往復が2往復になれば、運送会社の売上が上がるだけでなく、ドライバーの給与にも反映されるでしょう。また、2往復しなくても、ドライバーの拘束時間は短くなり、早い時間に帰宅できるようになります。2024年問題の端緒となったのは、ドライバーの時間外労働の960時間上限規制です。1日数時間の労働時間短縮は、大きな意味を持つはずです。

「豊洲市場になってドライバーの評価も上がった」と語る東京シティ青果株式会社取締役の藤澤啓氏
輸送効率をとるか作業効率をとるか
2024年問題は、運送会社だけで解決できる問題ではありません。トラックドライバーの減少と高齢化が進むなかで、日本全体の輸送力不足を補うためには、物流効率をさらに高める必要があります。そのためには、発荷主と着荷主を含め、物流に関わるさまざまなプレイヤーが協力し、知恵を出し合うことが重要です。
豊洲市場は、搬入・搬出のしやすい構造により、物流の効率化を追求しています。待ち時間だけでなく、荷下ろしの時間も大幅に短縮されたといいます。
「築地市場では段ボール箱のままトラックに積み込む“バラ積み”の比率が多く、10トントラックが着くとドライバーと当社社員が4、5人がかりで荷下ろしをして2時間ほどかかりました。いまは、パレットに段ボール箱を載せていることが多いです。フォークリフトを使ってパレット単位で下ろせるので、20~30分で完了します」と藤澤氏はいう。
パレットの活用は、2024年問題を解決するための手段の一つであり、バラ積みと比べると、積み下ろしの労力と時間を大幅に削減することができます。しかし、パレット自体がスペースをとるため、積載量が少なくなってしまうというデメリットもあります。
「例えばバラ積みで1,000ケース運べるとした場合、パレットを使うとその分積載量が減って800ケースほどになります。輸送効率と作業効率のどちらを優先するか。いずれにせよパレット化へ進んでいくことになると思います」と藤澤氏は語ります。現在、パレットの活用は急速に拡大しており、東京シティ青果で扱う品物に関していえば、パレット積みが5~6割を占めるということです。

市場内には多種多様なパレットが置かれている
パレット標準化がもたらす効果とコスト
農林水産省が2023年に策定した「青果物流通標準化ガイドライン※」では、1,100ミリ×1,100ミリの「標準」パレットの使用を推奨しています。しかし、実際はさまざまな大きさのパレットが使われています。標準化が効率化につながることは確かですが、既存の仕組みを変えるためには大きなコストがかかります。
青果物の種類によって、段ボール箱の形状やサイズが異なるため、1,100×1,100パレットでは中途半端な「余り」が生じて積載効率が下がる場合があります。
「国は1,100×1,100に合わせた段ボールの開発を求めていますが、容易ではありません。例えば、集荷場の設備は現状の段ボールを前提につくられたもの。規格を変えるとなれば設備を更新する費用もかかりますからね」(藤澤氏)
しかし、1,100×1,100パレットは、食品や医薬品、日用品などの分野でもよく使われている標準的なサイズです。商品分野を横断して同じサイズのパレットが使用されるようになれば、物流効率はさらに向上するでしょう。また、倉庫などに滞留するパレットも少なくなると考えられます。この取り組みを進めるためには、各荷主が協働する姿勢が求められます。
- 出典:「青果物流通標準化ガイドライン(2023年5月)」 (青果物流通標準化検討会, 農林水産省)(2024年11月13日閲覧)

標準パレットの導入には課題も多い
デジタル化に向けたさまざまなハードル
東京シティ青果としても、さまざまな手段により省力化や効率化を進めています。特に、デジタル化は大きなテーマとなっています。
「豊洲市場内の当社スペースには、約250台のカメラが設置されており、物流管制室から映像を見ながら現場に指示を出すことができます。これにより、ムダな動きを減らすことができる。また、自動立体低温倉庫や自動垂直搬送機などを備えており、青果物の品質維持とともに、できるだけ省力化を図っています」と語る藤澤氏ですが、一方で難しさも感じているといいます。
「自動フォークリフトの導入も検討していきたいですが、当社の社員以外にも多くの人が働く市場内で利用するにはクリアすべきさまざまな課題があります」
2024年問題とともに注目された物流の課題に、簡単な解決策はありません。一つ一つの工夫を積み上げるとともに、企業間や業界間の連携も必要でしょう。いずれにしても、長い時間をかけた粘り強い取り組みが求められます。
(取材・文:津田浩司/取材協力:東京シティ青果株式会社 取締役 総務部部長 藤澤啓氏)