AI新法とは?弁護士が著作権リスクや企業における注意点を解説

2025/12/ 9
#AI , #生成AI
AI新法とは?弁護士が著作権リスクや企業における注意点を解説

2025年に、AI新法が公布・施行されました。AI新法は「AIの利用を規制するためのもの」ではなく、「事業者によるAIの活用を促進するために制定された法律」です。AIはこれからの社会と切り離せない反面、情報漏えいや著作権侵害などのリスクもはらんでいます。そこで本記事では、AI新法の内容とAI利用のリスク、対応策について解説します。

※本記事に掲載している情報は、2025年12月時点のものです。制度改正や法令の変更などにより、掲載内容が最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

AI新法とは?施行された背景と概要を解説

AI新法の正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」です。2025年6月4日に公布、9月1日から全面施行され、AIとどのように向き合っていくかを示すために制定されました。

国内外のAI規制・推進の流れ

主要国・地域におけるAI規制・推進のアプローチ比較

内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」、
総務省「EUのAI規則案の概要」、
総務省「令和6年版 情報通信白書|米国」の内容をもとに作成

AIとの関わり方について、国外に目を向けると、EUでは2024年に包括的な「AI法(AI Act)」が成立し、リスクレベル(4段階)に応じて利用を禁止したり、制限を設けたりしています。また米国では、2023年にバイデン大統領の大統領令により、AIの安全性基準が設定されました。いずれもAIの導入を進める一方で、リスクの高いAIを規制・利用制限するという方向性です。EUやアメリカでは、急速にAIの普及・発展が進んだために、AI利用によるリスク対処を目的として規制をかけるという方向性で法整備が進められました。

ただし、2025年の現時点では、EUは要件が緩和され、米国ではトランプ政権下で大統領令を撤回するなど、規制を緩和する動きが見られます。

こうした国外のAI法と、日本のAI法では少し方向性が異なります。日本では「規制」ではなく、むしろ「推進」を基本方針とし、AIの安全性・透明性・信頼性の確保を前提にしたAIの活用支援を進めていく方向性です。EUやアメリカとは異なり、国内でのAI開発・活用が遅れていたことから、日本政府としてはAI推進を図るために法整備を行いました。

参考:内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」

AI新法の基本内容と目的

AI新法では、その目的について「AI技術の開発、活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与すること」としています。端的に言えば、AI活用を推進するための法律であり、「企業や事業者がAIを安心して導入できる環境を整えるための法律」ということです。

こうした目的を実践するために、AI新法では、国、地方公共団体、研究開発機関、活用事業者、国民それぞれに、以下の責務を定めています。

まず、国はAI技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を、総合的かつ計画的に策定し、実施する責務が定められています。国は新法の下、AI戦略本部を設置して施策を実施していくとしています。また、地方公共団体は、国との役割分担のもと、地方公共団体の区域の特性を活かした自主的な施策を策定、実施する責務を負うものとされています。

次に、大学などの研究開発機関では、AIの研究開発及びその成果の普及や人材育成に積極的に努めることが責務とされています。

さらに、活用事業者(AI技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者や、その他のAI技術を事業活動において活用しようとする者)は、積極的なAIの活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、国、地方公共団体が実施する施策に協力すべき責務を負うと定められています。

この「協力すべき責務」については、現状、国としては「AI事業者ガイドライン」を策定しており、活用事業者は同ガイドラインの内容を理解し、遵守することが求められます。最後に、国民は、AI技術に対する理解と関心を深めるとともに、国や地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものと定められています。

AI新法では、上記のような抽象的な責務を定めており、著作権などの個別の分野について明確にされていません。しかし、現行法の下で不明瞭なAIに関する部分は、今回のAI新法をもとに今後国が定める施策(ガイドラインなど)により、既存の法律(著作権法など)をAIにどう適用するかの解釈指針が示されていくと見込まれています。

参考:総務省、経済産業省「AI 事業者ガイドライン(第1.1版)」

AI・生成AIのビジネス活用における注意点

企業が注意すべきAI活用の3大リスク

筆者監修のもと、株式会社PLAN-Bマーケティングパートナーズ作成

生成AIは、学習したデータをもとに新しいアイデアを創造しうる非常に有用なものですが、使い方によってはリスクを有しているものでもあります。ここでは、生成AIをビジネスで利用する際の注意点について解説します。

情報漏えいリスク

生成AIをビジネスで利用する際にもっとも注意したいことのひとつが、データ入力による情報漏えいリスクです。生成AIに社内情報のデータを入力すると、そのデータを記憶、学習します。そうすると、他の第三者が当該生成AIを利用した際に社内情報をもとにした情報がアウトプットされてしまうおそれがあります。

つまり、A社が生成AIに社内情報を入力し、その後にB社がその生成AIを利用した場合、生成AIは、A社が入力した社内情報をB社にアウトプットしてしまうおそれがあります。その入力した社内情報に、顧客情報などの個人情報が含まれていた場合、事業者が管理する個人情報が外部に漏えいしたものとして、個人情報保護法違反になるリスクがあります。
また、入力した社内情報が会社の営業秘密であった場合、当該営業秘密は不正競争防止法による保護を受けられなくなるリスクがあります。

不正競争防止法上の「営業秘密」には、「秘密として管理されていること(秘密管理性)」が必要です。しかし、生成AIへの入力により外部に漏出した場合、秘密管理性が失われているものとなりかねません。

著作権・知的財産権のリスク

生成AIを活用してなんらかの生成物(AI生成物)を得た場合、「そのAI生成物の著作権は誰に帰属するのか」という問題もあります。現状の法解釈では、AIが自律的に生成しただけの制作物には、原則として著作権は発生しないと考えられています。

しかし、利用者が当該AIを「道具」として使用した場合、利用者に創作の意図(創作的意図)があり、具体的な指示や修正といった創作的な工夫(創作的寄与)が認められる場合には、その生成物について利用者に著作権が帰属する可能性があります。創作的寄与が認められるかは事案によって異なり、まだ議論が続いている段階です。

また、生成AIは学習したデータをもとに生成物を作成するため、学習したデータに著作物がある場合、そのAI生成物が第三者の著作権を侵害しているリスクもあります。基本的には、AI生成物に依拠性、類似性がなければ著作権侵害にあたるリスクは低くなります。

依拠性について、学習段階でもとの著作物を利用していた場合には、認められやすくなる(著作権侵害のリスクが高くなる)とされています。なお、たとえば画家Aの絵をAIに学習させて「画家A風の絵(実際にはAが描いたことのない絵)」を作成して商用利用する場合、作風(スタイル)自体は著作権の保護対象ではないため、直ちに著作権侵害とはならない可能性が高いです。しかし、元の画家の名声に便乗する行為とみなされれば、不正競争防止法などで訴えられるリスクは残ります。

加えて、既存コンテンツの学習データ利用における著作権侵害リスクもあります。生成AIによる学習段階での著作権物利用については、著作権法30条の4の要件を満たすかどうかを検討する必要があるでしょう。

たとえば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合には、同条の「著作権者の利益を不当に侵害する場合」に該当して違法となりえます。

このほか、AI生成物に関しては、知的財産権についても同様のリスクがあります。ロゴやネーミングなどの商標や、デザインなどの意匠についても商標法、意匠法の各規定により侵害の有無が判断されることになり、ケースによっては商標法違反、意匠法違反となるリスクが生じます。

AI・生成AI導入に伴うその他の企業リスクと法的責任

AI導入に伴うそのほかのリスクとしては、社員が誤ったAI利用を行ってしまい、それにより生成AIが誤情報を生成、発信することで、会社の信用失墜につながるリスクがあげられます。

また、契約書や広告などビジネス利用において、生成AI利用による責任を明確化していなければ、AIに起因する事故が発生した場合、契約内容によっては、AI開発者ではなくサービス提供者である自社が顧客への全責任を負うリスクがあります。

AIを導入する際には、こうしたリスクをしっかりと把握したうえで、事業におけるAI利用の必要性などと比較考慮し、各リスクの対応策を立てたうえで導入すべきと言えるでしょう。

AI活用に向けた企業の対応策

AI新法において活用事業者は、積極的なAIの活用により事業活動を行うとともに、国が実施する施策に協力すべき責務を負うと定められています。この国が実施する施策として、国は「AI事業者ガイドライン」を策定しています。

このガイドラインでは、上記のようなAI活用によるリスクへの対応策が含まれています。したがって、各リスクへの対応策としては、ガイドラインの遵守が欠かせません。以下では、具体的な対応策について解説します。

参考:総務省、経済産業省「AI 事業者ガイドライン(第1.1版)」

社内ルール・ガイドラインの整備

対応策のひとつとして、社内でAI利用ポリシーを作成するなどして、社内ルール・ガイドラインを整備することがあげられます。AI利用ポリシーでは、「生成AIの適切かつ安全な業務利用により業務効率の向上を図ること」などの利用目的を明確化し、「AIへの入力の際には機密情報、個人情報を入力しない」など、社員がAIを利用するにあたり、遵守すべき事項を定めるようにしましょう。

また、利用ポリシーを定めるだけではなく、定期的に社員研修を実施し、利用ポリシーの周知徹底やヒヤリハット事例の紹介などにより、教育研修を通じた社員のリテラシー向上を図るようにしましょう。

法令遵守と契約上の工夫

AIを利用するうえで、思わぬ形で法令違反、契約違反となりかねない場面があります。たとえば、取引先から提供された秘密情報を自社でAIに入力することは「AI提供者(AI作成者)への秘密情報開示」となることも考えられます。

こうしたリスクを回避するためには、取引先との秘密保持契約や、自社で定める利用規約において、「AIへの入力は第三者提供には該当しないものとする」という条項を追加するなど、AI入力の可否を定めておくべきでしょう。

また、事業者が顧客との契約の履行において外部AIを利用し、外部AIの欠陥によりなんらかの事故が生じた場合に、当該事業者がどの範囲で責任を負うかという問題が生じる可能性があります。顧客側からすれば、事業者に全責任があると考えるでしょうし、事業者としては外部AIの作成者に、責任を負担してもらいたいと考えるでしょう。

こうしたトラブルを未然に防ぐためには、外部AIの作成者との契約のみならず、顧客との契約において、AI利用による事故発生時の責任の範囲を明確化しておくべきと言えます。

こうした予期せぬAI利用による法令違反や契約トラブルを回避するためには、外部AIの導入時や取引先との契約時などの契約締結の場面において、弁護士による契約書チェックを受けておくことが重要です。

AIを活かしたビジネス事例とメリット

AIを活かしたビジネス事例

筆者監修のもと、株式会社PLAN-Bマーケティングパートナーズ作成

ここでは、AIを利用した事例とメリットを見ていきましょう。たとえば、金融業では不正口座の検知に活用されていますし、製造業では異常検知のツールや欠陥の原因特定のためのツールとして利用されています。

物流では、AIによる渋滞予測により配送遅延のリスクを下げることができており、小売業ではAIによる販売予測や来客予測をもとに、商品仕入れの最適化を図るような形でAIが利用されています。各業種において、AIを活かした業務効率化・新規事業開発・顧客体験向上などの成果が得られているため、リスクを抑えながら、メリットを最大化する視点を持つことが重要です。

まとめ

AI新法はAI利用を規制するための法律ではなく、企業がAIを正しく利用することができるようにするための「追い風」となる法律と言えます。AI活用によるビジネスへのメリットは、計り知れません。他方、AIには情報漏えいや著作権侵害などのリスクもあります。こうしたリスクに注意しつつ、社内のガイドライン整備や契約面の対策を行うなど、適切な対策を講じることで、自社にとってのAIのメリットを最大化していきましょう。

(文:一歩法律事務所 弁護士 南陽輔)

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