本ページでは、生成AIの導入によって期待できる業務効率化や品質向上、人材育成など、企業経営にもたらすメリットを、さまざまな企業事例を交えながら解説します。ノンコア業務の自動化によるリソース再配分、顧客ニーズに即した商品・サービス開発、円滑な業務引き継ぎなど、生産性向上に直結するポイントを整理しています。さらに、生成AIを実装する際に押さえておくべき重要なポイントについても併せて紹介します。
ビジネスで生成AIを利用している企業の割合
ビジネスで生成AIを活用している企業の割合は、以下の通りです。「企業の規模別で見た今後の利用方針」「諸外国と比較した業務での利用率」という2つの観点でご紹介します。
【企業の規模別で見た今後の利用方針】
大企業
- 積極的に活用する方針である:26.1%
- 活用する領域を限定して利用する方針である:29.6%
中小企業
- 積極的に活用する方針である:17.5%
- 活用する領域を限定して利用する方針である:16.8%
大企業でも約3割近くに留まっており、人員や資金が限られる中小企業ではさらに数値が低めです。
【諸外国と比較した業務での利用率】
- 日本:55.2%
- 米国:90.6%
- ドイツ:90.3%
- 中国:95.8%
日本は約半数の企業で生成AIを活用していますが、諸外国と比較すると数値は低めです。
参照:総務省|第Ⅰ部特集 広がりゆく「社会基盤」としてのデジタル
日本でも生成AIの利用率は増加傾向にありますが、拡大の余地は残されています。
とくに中小企業は、業務へ投下できる人員や資金が限られるため、生成AIの積極的な活用を通じ業務効率化を図ることが大切です。中小企業で生成AIを活用する際は、以下のような事例をご参照ください。
【業種】
製造業
【従業員数】
50人
【事例の概要】
工場内の小型センサーによって人の流れを計測し無駄な工数を洗い出すことで、安全管理を徹底しつつ少人数での工程管理を実現した
【業種】
その他サービス業
【従業員数】
232人
【事例の概要】
シフト作成にAI機能を活⽤して「責任者しか作業員のシフトを組めない」「前⽇や当⽇までシフト未提出の状況が恒常化している」という課題を解消し、誰でも1ヶ月先のシフトを組めるようになった
【業種】
印刷・同関連業
【従業員数】
22人
【事例の概要】
AIや動画を活用し熟練技術者のノウハウをマニュアル化することで、社内の若手へ着実に技術継承できる体制を整備した
また、上記とは別で2025年3月に実施された中小企業13,479社を対象とした調査結果によると、生成AIについて「導入していないが導入予定はある」と回答した企業の割合は17.8%でした。これはチャットツールや電子契約システムなどのデジタルツールの中で最多であり、今後のビジネスにおいて生成AIの活用は一般的になると予想されます。
参照:日本政策金融公庫|導入予定割合が最も高いデジタルツールはAI(人工知能)p.2
生成AIを活用できる業務の例
生成AIを活用できる業務の例としては、以下が挙げられます。
- コンテンツの要約や翻訳
- 画像や動画の生成
- イベントの企画
- リサーチ
- プログラムコードなど制作物へのアドバイス
ビジネスで生成AIを活用するメリット
ビジネスで生成AIを活用するメリットは、主に以下の8つです。
- 業務効率化によって従業員の負担軽減が見込める
- コア業務へのリソース投下が見込める
- 作業の品質平準化が見込める
- 人件費の削減が見込める
- 職場環境の改善が見込める
- より顧客のニーズにマッチした商品・サービスの構築が見込める
- スムーズな業務の引き継ぎが期待できる
- 効果的な人材育成の実現に寄与することが期待される
業務効率化によって従業員の負担軽減が見込める
以下のような業務の自動化により、従業員の仕事量を軽減し効率化に役立つことが期待されます。
- 事務作業
- データ入力
- 簡単な問い合わせ対応
- SNS投稿文の自動作成
- 自動翻訳による多言語対応
従業員の負担軽減によって、職場の満足度向上につながるかもしれません。人材定着率を改善できる可能性もあるため、人手不足で悩む企業にとってはメリットです。
コア業務へのリソース投下が見込める
ノンコア業務を生成AIで遂行することで、以下のようにより企業の売上に直結するコア業務へリソースを投下できるようになると期待されます。
- 新規開拓の営業活動
- 商談
- 商品及びサービス開発
- 経営戦略の立案
- 市場調査や分析などのマーケティング活動
前提として、ノンコア業務も企業経営において必須の仕事です。例えば営業の場合、契約書の作成や毎月の請求管理、システムへの売上入力といったノンコア業務が実施されなければ、営業の遂行に支障をきたします。しかし「経営を安定させる」という観点では、可能な限りコア業務へリソースを投下することが理想です。
作業の品質平準化が見込める
属人的な運用にありがちな「検品時の確認漏れ」や「問い合わせ対応への品質の差異」などを回避することに役立ちます。
作業品質の平準化に伴い、商品・サービスの品質を担保しつつ安定供給が可能です。クオリティの担保によって、消費者や取引先からの満足度向上にもつながることが期待できます。
人件費の削減が見込める
管理や最終確認を行う担当者は必要ですが、生成AI導入部分は従来より作業人数を抑えられるため、人件費の削減が見込めます。
また、リソースを確保できた従業員を別のコア業務へ配置することで、定型作業へのコストを抑えつつ、企業の収益性向上に直結する部分へ人員を集中投下できるようになることも期待されます。
職場環境の改善が見込める
一部業務に生成AIを導入することで、従業員の負担が軽減され、在宅勤務やフレックス制度など、より柔軟な働き方を導入しやすくなることが期待されます。働きやすい職場環境の構築によって、従業員の満足度が向上し、人材の定着率アップを図れるかもしれません。
より顧客のニーズにマッチした商品・サービスの構築が見込める
生成AIでは、以下のように大量のデータを高速処理し顧客に関する情報を深く分析可能です。
- 自社に登録している顧客の属性
- SNSの評判や口コミサイトの中身
- 顧客からの問い合わせ内容
- 競合他社や市場の状況
- ターゲットの間で流行しているトレンド
詳細な情報分析を通じ消費者や取引先のニーズを洗い出すことで、よりターゲットにとって魅力的な商品・サービスを開発する際に役立ちます。
スムーズな業務の引き継ぎが期待できる
生成AIは、以下のような情報を洗い出し可視化する際に役立ちます。
- 職人が長年蓄積した技術
- 業務フロー
- 過去の問い合わせ内容を基にまとめた想定問答
技術や経験、ノウハウをマニュアルとして可視化することで、円滑な業務の引き継ぎが期待されます。また、マニュアル改善を続けることで、担当者の変更後も作業品質の平準化を図り、業務品質を一定水準以上に保ちながら安定して遂行できるでしょう。
効果的な人材育成の実現に寄与することが期待される
生成AIの活用により、以下のように人材育成業務へ活用できることが期待されます。
- eラーニング受講生の学習結果に合わせたフィードバックの作成
- 従業員のスキルやキャリア目標を考慮した育成プログラムの設計
- 人材評価基準の策定
学習結果のチェックや目標設定といった担当者の業務負担を軽減しつつ、育成プラグラムを設計することで、効果的な人材育成を実行可能です。
人手不足の中で収益性向上を目指すにあたり「生成AI」は有効な手段
上記で解説したように、生成AIの活用によって数多くの施策の実行が期待されます。
- 大量の顧客データを解析してニーズにマッチした新商品を開発する
- 詳細な業務マニュアルを作成して作業品質を平準化し、全従業員が同品質のサービスを提供できる体制を整える
- 各従業員の学習状況に合わせた育成プログラムを作成し、組織全体のスキルアップを図る
- 定型業務を生成AIへ代替し、コア業務へ多くの人員を割ける状態を作る
業務効率化や作業品質の向上などを実施することで、リソースを有効活用しつつ「コスト削減・売上アップ」を実現し、最終的な収益性向上を目指せるでしょう。
とくに日本は少子高齢化の影響もあり、人手不足が深刻化しています。中でも中小企業は、以下のように多くの業界で人材不足を実感しているという背景もあり、「生成AIの活用」は問題解消に向けた有効な手段になり得るでしょう。
| 業種 | 中核人材(※1)の不足を感じている割合 | 業務人材(※2)の不足を感じている割合 |
|---|---|---|
| 建設業 | 82.3% | 77.4% |
| 製造業 | 75.4% | 61.2% |
| 情報通信業 | 79.1% | 68.5% |
| 運輸業 | 76.9% | 72.0% |
| 卸売業 | 68.7% | 53.8% |
| 小売業 | 73.7% | 66.2% |
| 不動産業、物品賃貸業 | 59.4% | 50.7% |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 79.2% | 77.0% |
| 生活関連サービス業、 娯楽業 |
70.1% | 65.0% |
企業が人手不足の中で業績アップを目指す取り組みとして、生成AIの活用だけでなく以下も挙げられます。
- 人員配置を見直して従業員のスキルを活かせる業務を割り振る
- 定型業務を外部へアウトソースし、社内のリソースをコア業務へ投下する
- 職場環境を改善して従業員の業務へのモチベーション向上を図る
生成AIに上記のような施策を組み合わせることで、より成果を出しやすくなるでしょう。
- ※1 「事業上の業務で中核を担う人材」や「高度な専門性を持つ人材」をさす
- ※2 「事業運営において業務遂行を担う人材」「専門性や技術レベルは高くないが事業運営に不可欠な労働力を提供する人材」をさす
- 参照:中小企業庁|第1節 人材の確保
生成AIの活用時に留意すべきポイント
生成AIを活用する際は、以下のポイントにご留意ください。
- 社内で「生成AI活用時のリスク」を周知する
- リスクマネジメントのハードルが高くなるため事前に対策しておく
- 出力回答を鵜呑みにせず必ずファクトチェックする
- 人員配置や業務の見直しも視野に入れる
- 導入や運用時に必要なコストを考慮する
社内で「生成AI活用時のリスク」を周知する
前提として生成AIの提供側は、情報を保護するために日々セキュリティを強化しています。
しかし提供側が十分な対策を講じても、自社内で「機密情報の入力」や「AI学習禁止データの組み込み」といった不適切な運用が実施された場合、情報漏洩や権利侵害などの重大なリスクが生じる可能性があります。
生成AIの活用を安全に推進できるよう、「社内での勉強会開催」や「業務マニュアルの作成」などを通じ、従業員へ利用時のリスクを周知することが大切です。
リスクマネジメントのハードルが高くなるため事前に対策しておく
生成AIの導入範囲が拡大すると、情報漏洩や誤情報の出力、著作権の侵害といったリスクの発生確率が高まります。意図的でなくてもこれらのトラブルを引き起こしてしまうと、自社への信頼性低下を招きかねません。
安全に生成AI活用を推進するには、潜在的なリスクを事前に洗い出し「ガイドラインによる防止策の明文化」「トラブル発生時の対処方法の設計」などの対策が必要です。
出力回答を鵜呑みにせず必ずファクトチェックする
AIでは学習データの偏りや推論への限界が発生し得るため、必ずしも正確な回答が出力される保証はありません。プロンプトの内容次第では、誤回答や想定外のリスクが含まれた回答が出力されるため、ファクトチェックが不可欠です。
回答の精度を向上するには、利用側による「質問の意図や言葉の定義の明確化」や「質問の背景・文脈の共有」などを通じた試行錯誤が必要です。
人員配置や業務の見直しも視野に入れる
業務自動化によって担当者のリソースを確保できるため、必要に応じ「より専門性を活かせる部署への配置転換」「業務負荷の軽減を目的とした割り振りの変更」というイメージで、人員配置や業務の見直しを実施することが大切です。
導入や運用時に必要なコストを考慮する
生成AIの活用を通じ、業務効率化や人件費削減などを実現することで、長期的に高い費用対効果が見込めます。一方で、短期的には「AIツールの導入費用」「運用担当者の教育コスト」などが発生します。そのため、生成AIの活用時はこれらのコストも考慮した資金計画が必要です。
コストの削減方法については、「コストを抑えるには補助金などの各種制度を活用しよう」にて解説しています。
生成AIを有効活用するためのポイント
生成AIを有効活用するために意識すべきポイントは、以下の4つです。
- 事前に責任者の所在や業務範囲などを明確化する
- スモールスタートで導入する
- 従業員へのリテラシー教育を実施する
- 定期的に費用対効果を測定する
事前に責任者の所在や業務範囲などを明確化する
生成AIの活用においては、誤回答データの利用や学習禁止データの組み込みといったリスクが伴います。これらのリスク発生に備えて、事前に以下の方針を明文化してください。
- 生成AI活用に関する責任者の所在
- 自動化を適用する業務の範囲
- 社内での運用ルール
- 具体的なトラブル防止策
これらを明確化することで、トラブル発生時も責任者を起点として円滑に対応可能です。
スモールスタートで導入する
生成AIの運用に不慣れな場合、まずは特定業務や部署などから試験導入し、結果を検証しつつ徐々に適用範囲を拡大してください。スモールスタートであれば、仮に初期段階で想定と異なる結果が生じても、企業全体への影響を最小限に抑えつつ柔軟に改善可能です。
従業員へのリテラシー教育を実施する
「社内勉強会での専門家による研修」や「オリジナルマニュアルの作成・周知」などのリテラシー教育を実施することで、生成AIに対する従業員の理解度を高め、以下のようなリスクを回避しやすくなります。
- 機密情報の誤入力による情報漏洩の発生
- 検証が不十分な出力データの業務利用
- 学習禁止データの組み込み
定期的に費用対効果を測定する
定期的な費用対効果の測定により、生成AIが業務効率化やコスト削減にどの程度寄与しているか定量的にチェックできます。測定の結果次第で、運用ルールの改定や生成AIの適用範囲変更などを実施することが大切です。
生成AIではコストやセキュリティリスク対策などがネックになるケースもある
生成AIを有効活用するには、従業員教育や費用対効果の測定などが必要ですが、導入経験がない企業では、以下のような不安を感じるかもしれません。
- コストに見合った成果を残せるのか?
- セキュリティリスク対策を正しく実行できるか?
- 従業員を教育できるか?
- 正しい回答を見極めて業務に活用できるか?
企業の負担に大きく関わる「コスト面」はなるべく抑えることが理想
とくに「コスト面」は、企業負担に直結する部分です。長期的な収益性向上が見込めても、短期的な支出が過大になれば財務状況を圧迫する可能性があります。そのため、生成AI導入においても可能な限りコストを抑え、業務効率化や売上アップなどを実現することで、より高い費用対効果を実感できることが期待されます。
コストを抑えるには補助金などの各種制度を活用しよう
生成AIの導入については、各種補助金制度も整備されています。条件に該当すれば、例えば以下のような補助金活用が見込まれます。
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 中小企業新事業進出補助金
- 持続化補助金
- 中小企業省力化投資補助金
- 事業再構築補助金
生成AIの導入をまずはスモールスタートで始めてみよう
生成AIの導入は、リソースの限られる中小企業に大きなメリットをもたらします。導入に伴うコスト面の課題も、各種補助金や助成金を活用することで、負担を軽減できる場合があります。
こうした工夫により、人材不足への対応だけでなく、事業全体の収益性向上につながる可能性も考えられます。まずは特定の業務や部署で試験的に導入を検討し、効果を確認しながら取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
文:内野真尚人
