5Gがもたらすビジネスチャンスを逃すな

2019/10/29 #5G,#IoT

5Gの3つの特徴

新聞やニュースなどで”5G”という言葉を見聞きしたことがあるでしょうか。

5GのGはGeneration(世代)の頭文字で現在の4Gから更に進化した第5世代の通信技術をさします。世界では既に利用が始まっている国もありますが、日本では来年(2020年春)から通信事業者によるサービス提供が始まる予定です。

5Gには「高速大容量通信」「超信頼・超低遅延通信」「多数同時接続」という3つの特徴があります。それぞれ、「大きなデータを速く運べる」「通信による遅れが少ない」「一度に複数の機器をつなげることができる」と言い換えることができます。中でも、3つ目に挙げた「多数同時接続」は、あらゆる場所に埋め込まれたセンサーからデータが収集されるIoT時代において、5Gに期待が寄せられる理由となっています。

5Gが持つ3つの特徴

出所:総務省2020年の5G実現に向けた取組より作成
http://www.soumu.go.jp/main_content/000593247.pdf

サービス開始時点では、5Gの特徴のうち「高速大容量通信」という側面に限ったものとなりますが、段階的に残りの2つの特徴を備えていき、将来的には3つの特徴を備えたフルスペックの5Gが提供される予定です。メディアでは、「スマートフォンの通信速度が更に速くなる」「2時間の映画が3秒でダウンロードできるようになる」などと取り上げられている5Gですが、現在私たちが利用している4Gとはどのような点が異なるのでしょうか。また、5Gの活用でビジネスは今後どのように変化し、どのようなビジネスチャンスが生まれるのでしょうか。

5Gで期待される製造業の変化

5Gは製造業のビジネスを大きく変化させると期待されています。製造や配送工程におけるトレーサビリティー(原材料や部材の仕入先や販売先を追跡可能な状態にすること)、工場機械の故障等の予測や検知、産業用ロボットの中央制御や協調作業などでの活用が考えられます。特に、工場における活用は、生産性の向上や人手不足の解消などにつながると期待されています。機械の故障を未然に防いだり、最適な加工条件になるように制御された環境で製造を行ったりできれば、工場全体の生産性向上につながります。また、機器やロボットが遅延なく自律的に動き、人と一緒に仕事をすることができると製造現場の人手不足解消につながるでしょう。ここで機器やロボットが遅延なく自律的に動くためには、通信の遅延による機器制御の失敗や、ロボットとその他周辺機器の衝突などのトラブルを回避する必要があります。これは5Gだけで実現できる、というものではありませんが、実現のためには5Gの活用が必要と言えるでしょう。機器やロボットを制御するために、工場内に多数設置したセンサーから大量のデータを随時収集・分析し、その分析結果を機器やロボットにフィードバックする際、4Gによる通信では遅延が発生しますが、5Gの3つの特徴を活かすと、ほぼ遅延がなくなるためです。

また、5G時代になり、無線通信の性能が上がると、工場内の無線化が進むと考えられます。これまでは4Gの無線通信は有線に比べて不安定であることから、生産ラインのトラブルを起こすことへの不安があり、工場の無線化が進んできませんでした。しかし、今後、超信頼・超低遅延通信である5Gでの無線通信の活用で、いよいよ無線化の進展が期待されています。工場の無線化が進むと、機械同士を接続する有線ケーブルが不要となります。これにより工場内のレイアウトや生産ラインの変更を柔軟に行うことができるようになるため、消費者のニーズにあった形にカスタマイズされた製品を効率よくかつ低コストで生産するマス・カスタマイゼーション(個別大量生産)に向けた取組みが加速することも期待されています。

このような可能性を見据え、日本国内では5G活用のための実証実験が進められています。代表的な例として、KDDIとデンソー、九州工業大学による、デンソー九州の工場での実験があります。高精度の三次元計測センサーとロボットに5G対応端末を接続し、計測データや制御データを5Gで送受信することで、産業用ロボットの高精度な制御を行う取り組みです。*1

本記事内で紹介した例は、ごく一部にすぎず、さらに広範な分野での活用が期待されています。

5G時代の到来に向けて

現在は実証実験が行われている段階ですが、近い将来、通信事業者からフルスペックの5Gが提供され始めると、ビジネスの現場で実際に活用され、消費者が新しい価値を享受できるサービスが多様な事業者から提供されるようになるでしょう。様々な事業者が5Gを活用した新たなビジネス構築のために、必要な設備投資を行ったり、新たなビジネスパートナーと連携・提携を行ったりするケースが増えると予想されます。このように、5Gは、単なる通信技術の進歩というだけにとどまらず、ビジネスのやり方やパートナーを大きく変革する可能性があります。現時点では、直接的には5Gと関係ないと見えている業種・規模の企業であっても、新たなビジネスパートナーとの連携などによってビジネス機会が生まれる可能性は十分にあります。

また、5G時代の通信事業者は、単に通信サービスを提供するだけでなく、通信事業者だからこそ有する膨大なエンドユーザーに関する情報や知見を提供する存在になると考えられます。このため、それまで消費者と全く接点のなかった企業でも、通信事業者が提供するサービスを利用することで、消費者向けサービスを展開できるようになるかもしれません。5Gを活用し新たなビジネスを検討する上では、このような通信事業者の変化も踏まえ、幅広い視野を持つことが重要といえます。

今後5G時代の到来とともに訪れるビジネスチャンスを逃さないためには、5Gを活用した事業機会はどこにあるのか、自社のビジネスにどのような影響を与えるのか、現段階から想定し、準備をしておくことが必要ではないでしょうか。

(野村総合研究所 アナリティクス事業部 コンサルタント 有薗 優太)

【参考文献】
亀井卓也(2019)『5Gビジネス』日本経済新聞出版社
5Gでビジネスはどう変わるのか https://www.nri.com/jp/journal/2019/0815

*1 5Gによる産業用ロボット制御の実証試験を開始
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2019/01/29/3576.html

三菱HCキャピタルでは、お客さまの事業をサポートさせていただく
様々なサービスを展開しております。

記事内容の改善に向け、
本記事の感想をお寄せください