コロナ禍の「令和3年度税制改正大綱」法人税はどう変わる?

2021/2/ 1 #税務

2020年12月10日、自民・公明両党は菅義偉政権下で初となる「令和3年度税制改正大綱」を正式決定しました。新型コロナウイルスの感染拡大で失速した景気のテコ入れ策として、3年に1度の見直しのタイミングとなる固定資産税額を全ての土地で据え置き、自動車重量税を環境性能に応じて3段階で減免する「エコカー減税」を延長するなど、国と地方自治体を合わせて600億円規模の減税を実施します。

法人税の分野では、コロナ禍で企業が従業員を解雇したり、新卒採用を見送ったりする動きが広がっているのを受けて、所得拡大推進税制の適用要件については「賃上げ」から「新規雇用者の増加」へと軸足を移し、雇用の改善に取り組む企業をサポートする内容へと変更されています。

さらに、コロナ不況下でも企業の投資意欲を引き出すべく、2021年度に改正される「産業競争力強化法」に基づく「中長期環境適応計画(仮称)」や「事業適応計画(仮称)」の認定を受ける青色申告法人を対象に、ポストコロナを見据えた脱炭素やデジタルトランスフォーメーション(DX)関連の設備投資減税を実施する予定です。これらの設備投資を行った事業適応計画の認定法人は、業績赤字を翌年以降の黒字と相殺できる繰越欠損金制度拡充の恩恵を受けることもできます。

雇用の改善に取り組む企業の法人税を優遇

大企業や中堅企業向けの所得拡大推進税制では、「雇用者給与等支給額が前期と比べ増加」「今年度の新規雇用者の給与等が前年度比で2%以上増加」という2つの要件を満たせば、新規雇用者給与等支給額(雇用者給与等支給額の対前期増加額が上限)の15%が法人税額から控除できるようになります。従前の「国内の設備投資額が当期の減価償却費の95%以上」という条件は削除されました。

中小企業は「雇用者給与等支給額が前期比で1.5%以上増加(役員の親族が従業員の場合などは、その人を除いて判定)」という要件を満たすと、前年度からの給与等増加額の15%の税額控除が受けられます。大企業・中堅企業では「新規雇用者の給与」が判断基準とされたのに対し、コロナ禍で経営が厳しい中小企業については雇用の維持が重視された格好です。

いずれも、2021年4月1日~2023年3月31日までに開始する事業年度から適用されます。また、デジタル関連の従業員研修や教育の費用を一定割合増やすことを条件に、大企業や中堅企業については控除率が5%、中小企業については10%上乗せされます。

繰越欠損金控除の上限を
課税所得全額まで拡大

企業は計上した赤字を繰り越して翌年以降の黒字から差し引き、法人税の負担を軽減することができます。これが「繰越欠損金控除」と呼ばれる制度で、現状、大企業だと上限額は課税所得の50%、繰り越しが可能な期間は最長10年となっています(差し引いた金額の合計が赤字額に達するまでは適用が可能)。しかし2020年4月1日~2021年4月1日までの期間内の日を含む事業年度に生じた欠損金については、事業適応計画の認定法人が後述するカーボンニュートラル(炭素中立)またはDXの設備投資を行うことを条件に、この上限を課税所得の最大100%まで引き上げ、期限は翌期以降最長5年間とするという優遇措置が受けられます。例えば、コロナの影響で今期500億円の赤字が発生した企業の来期の課税所得が200億円、事業適応計画に基づいた投資額が100億円だとすると、繰り越し後の課税所得は現行制度なら100億円のところが、優遇措置下ではゼロとなります。これはコロナの影響が大きかった企業ほどありがたい措置と言えるでしょう。

カーボンニュートラル投資に
最大10%の税額控除

政府が掲げた「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、企業が温室効果ガスの大幅削減等につながる最新の設備を生産ラインに導入すると、一定の条件を満たせば設備投資500億円を上限に、投資額の5%または10%の税額控除(後述のデジタルトランスフォーメーション税額控除との合計で当期の法人税額の20%を上限)か、同50%の特別償却のいずれかを適用できるようになります。また、消費電力を抑える「化合物パワー半導体」や、繰り返し充電できる「燃料電池」などを生産する設備投資にも同様の優遇措置を設けました。設備投資の金額を法人税額から直接差し引ける税額控除について大企業向けでは通常3%や5%とする制度が多く、この制度の「最大10%」は異例と言えるでしょう。適用期限は2024年3月末までに設備投資をして、国内事業に使用した資産が対象です。

クラウド活用など
デジタル化に向けた設備投資に減税

カーボンニュートラルと並び、今回の税制大綱の目玉となるのがDX減税です。これは、クラウドサービスを使うなど、デジタル化に向けた設備投資を対象に、自社グループ以外の事業者とデータを連携・共有するための投資を行った場合は5%、グループ内なら3%を法人税額から差し引けるというもの(前述のカーボンニュートラル投資の税額控除と合わせて当期の法人税額の20%を上限)。税額控除だけでなく、30%の特別償却も選択できます。優遇税制の対象となるのはソフトウェアやクラウドシステム移行にかかる初期費用、機械装置や備品などで、投資額は下限が売上高の0.1%以上、上限が300億円。適用期限は2023年3月末までに設備投資をして、国内事業に使用した資産が対象です。

試験研究費の税額控除を2年限定で拡大

コロナ禍で売上が減った企業の研究開発が滞らないよう、試験研究費の額に税額控除率を乗じた金額を法人税から差し引ける制度(税額控除制度)を手厚くしています。現行の研究開発税制では大学やベンチャー企業との協業を条件に研究開発費の一部を最大45%控除できますが、ウイルスの感染拡大前と比べて年間売上高が2%以上減少した企業を対象に、2021年4月1日~2023年3月31日までの間に開始する事業年度の2年限定で、この上限が50%に引き上げられます。試験研究費の増加に合わせて高くなる税額控除率は現行制度の6~14%から2~14%と幅を持たせ、インセンティブ的要素を強めているのも特徴です。同時に、研究対象に「クラウド環境で提供する自社ソフトウェア」が追加されるなど、試験研究費の定義も見直されています。

自社株式で対価を支払う大企業の
M&Aを後押し

2021年3月1日施行の改正会社法で、株式会社が他の株式会社を子会社とするための「株式を対価とするM&A(株式交付制度)」が可能になります。これを受けて、売却益に応じた法人税や所得税の負担が生じる買収先の株主(法人・個人)が、株式を売却して現金化するまで課税を繰り延べられるようにしています。株主からすれば買収提案に応じるハードルが下がり、買収側の企業もM&Aが仕掛けやすくなるほか、手元資金を設備投資などに有効活用することもできます。

中小企業の再編を促す
「M&A損失準備金」の損金算入

ただしM&Aには、株式を取得した後に隠れた簿外債務や偶発債務が明らかになるリスクが生じます。そこで、2021年度中に改正する中小企業等経営強化法の施行日から2024年3月31日までの間に、同法による経営力向上計画の認定を受けた中小企業が計画に沿って他企業の株式を購入・保有し、こうした事態に備えて「中小企業事業再編投資損失準備金」を積み立てた場合、取得価額の70%までを当該事業年度の損金に算入できるようになります。ただし、取得価額が10億円を超えていたり、事業年度の終了日より前に株式を手放したりしたときは、この限りではありません。
また、準備金の残高は、5年間の据置期間終了後、原則として、5年間で均等額を取り崩して益金に算入します。

「中小企業者等の法人税等の特例」などが
2年間延長

中小企業関連では、所得のうち800万円以下の部分の法人税率が15%に軽減される「中小企業者等の法人税率の特例」の適用期限が、2023年3月末まで延長されました。また、自然災害や感染症対策の設備投資の20%の特別償却が可能となる「中小企業防災・減災投資促進税制」も、対象に停電時の電力供給装置、重要設備のかさ上げに用いる架台、サーモグラフィを追加し、期限を2023年3月末まで延長しています。
近年の改正では、社会や産業構造の急速な変化を踏まえて規定の細分化、専門化が進んでいます。「今回の改正が該当しそうだからもっと詳しく知りたい」「専門外のため、記載内容がよく分からない」といった場合は、税理士などの専門家を活用するといいでしょう。

(取材・文:森田聡子/監修:税理士法人おおたか 税理士 深津栄一、市川康明)

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