あの会社はどうやって働き方改革に取り組んでいるのか?

2020/4/ 6 #働き方,#人手不足,#生産性向上

限りある資源で成長への道筋を作る

ここ数年、多くの企業で、働く時間をいかに短くするかに焦点をあてた働き方改革が行われてきました。社員への声掛けを強化したり、退社の時間を区切ったり、時には建物内の照明を強制的に消してみたり・・・。企業は様々な工夫をしながら、社員の労働時間の短縮を進めてきました。経団連(日本経済団体連合会)が発表した「労働時間等実態調査」の結果を見ても企業の年間総実労働時間は短くなっています※1
しかし、時間に焦点を当てた働き方改革に取り組む企業の中には、時間の制約が増えて業務が回らなくなった、新しい活動が出来なくなった、といった問題を感じている企業も見られます。特に中小企業では、働き方改革以前に人手不足が深刻で、従業員は日々の仕事に追われています。このような状況で、仕事の量や中身を一切変えず、時間を単純に減らそうとしても無理があります。労働時間を減らした分、企業として生み出す付加価値が低下してしまうのでは、働き方改革を進めるのは難しくなるでしょう。本来進めるべき真の働き方改革は、企業の継続的な成長につながる生産性向上を伴った改革なのです。中小企業において、生産性向上は極めて重要です。生産性を向上させることは、限りある資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限に活用して成長への道筋を作りだすことに直結するからです。

「使い方」を見直して時間を捻出する

労働時間の量を減らすことを考える前に、実施している業務を棚卸し、重複している業務や必要がなくなった業務を省いていくことから始めます。長く事業を行っている企業では、実施する意味合いが薄れたものの過去の経緯で続けている業務が存在していることもあるでしょう。そのような業務に費やす時間をなくしていくのです。
次に、時間の使い方を見直します。その際の視点は2つあります。1つは、業務のやり方を変えるという視点です。IT関連のソリューションを提供するSCSK株式会社では、システム開発の進め方を見直すことで業務時間を短縮しました。SCSKでは、一旦完成まで作り上げたシステムを顧客に見せ、修正や要望を受けた上で作り直しが行われていました。全てを作り上げたシステムの作り直しであるため、1つの修正が大きな手戻りとなる上に、作り直しが繰り返し発生していました。このため、担当する社員の業務時間は長くならざるを得ませんでした。そこで、システム開発プロセスを見直し、システムを作りきる前にこまめに顧客に確認を取るように変更しました。その結果、1つ1つの修正が小さな修正で済むようになり、結果として作り直しの頻度が減り、残業時間を大幅に削減することができたのです。※2
もう1つの視点は、ITや機械、外部サービスを積極的に活用するという視点です。企業、特に中小企業におけるヒト・モノ・カネには限りがあります。しかし、機械に業務を任せたり、外部のサービスに業務の一部を担ってもらったりする選択肢も存在するのです。例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は標準化された単純業務等を自動に処理させることができるソフトウェアです。伝票のデータ入力、請求書の発行等、RPAを導入することで人的なミスも減らしつつ、業務時間の短縮を行うことが可能となります。その他にも営業の情報をスマートフォン等で簡易に管理するツール、生産プロセスを管理するツール等、様々な選択肢が存在しているのです。プラスチック製造会社の有限会社朋友機械は稼働率のばらつきによって発生する無駄時間を削減するため、生産管理システムを約110万円のコストをかけて導入しました。その結果、稼働率は約60%から約80%まで上昇、外注費割合は約9%から約4%へ減少し、利益率が3.9倍に高まるという結果を出しています。※3短期的には大きな出費が発生しても、自らの業務を見直し、自らの企業にあった形で変化を起こすことは、長期的には企業の生産性を高め、企業の競争力を高めることにつながっていくのです。

社員一人ひとりの能力を引き出す

時間の使い方を変えた上で、もう一つやるべきことがあります。それは、業務を担う社員が能力を最大限に発揮できる仕組みを作ることです。企業の付加価値は、社員によって生み出されます。社員一人ひとりが最大限の能力を発揮できれば、企業は生み出す付加価値を高め、更に生産性を高めることができるようになるのです。
まずは社員同士の横の連携、上司と部下の縦の連携を強化し、互いが高めあうことができる環境にしていくことが有効です。お互いの顔が見える規模の中小企業ではこのような活動はすでに実施していると感じることもあるでしょう。しかし、重要なことは、互いの距離感の近さだけではなく、お互いに日々の活動の良い点や改善点を伝えあい、切磋琢磨しあえる環境を整えていくことなのです。ヤフー株式会社では2012年から上司と部下が毎週1回30分間対話をする1on1という取り組みを実施しています。日々の業務の進捗確認を行い、その時々の問題解決をサポートするこの時間は人材育成を目的とする場として活用されています。特徴的なのは1on1を「部下のための時間」と明確に定義づけ、部下が自分の考えを語る形で進めていることです。上司は傾聴力やフィードバックの手法を事前に身に着け、この場に臨みます。選手とコーチが共にゴールを目指すように、上司は部下の声に耳を傾け、一人ひとりの状況に合わせた相談や評価をタイムリーに行い、適切なアドバイスを行うようにしているのです。1on1では、目先の業務だけではなく個人のキャリアやビジョンがテーマに上がることもあります。将来的な目線を上司と共有し、先々の目標を思い描きやる気を持って業務に取り組んでもらうこともできるようになります。個人がやる気を持って成長することで、最終的にはチーム全体としての能力向上につなげているのです。※4
また、企業には自己啓発や研修など社員が能力を伸ばす機会を提供していくことも求められています。駐車場システム機器及びメカトロニクス機器などの開発・生産を行っている株式会社サニカは外部機関等も活用をしながら人材育成を行っています。各部門に必要な能力、技術・資格等を洗い出し、その技術・資格を証明するために必要な受験手数料や学習講座の受講料を会社が負担をしているのです。階層別研修等、社内で提供することが難しいプログラムは外部の機関を活用しています。社員に求める能力を示し、それを身につける機会を提供することで組織としての能力を高めているのです。※5
社員の能力を最大限に引き出す活動はすぐには効果が見えづらいもののため、対応が後回しになりがちです。しかし、個人が能力を発揮しやすい環境を整えたり、その能力を高める活動を行ったりすることは長期的に企業の生産性を高めていく活動につながり、企業として、更なる付加価値を生む良循環を築いていくことになるのです。

長期的なメリットを見極めて必要な投資を

働き方改革の肝となる「生産性の向上」は、すべての企業において重視すべき活動です。単純な時間の削減を目指すのではなく、現在の時間の使い方を見直すとともに、社員一人ひとりが最大限の能力を発揮できるようにすることが重要です。中小企業の中には、このような活動を行う余裕はないと考える企業もあるでしょう。しかし、資源を最大限効率的に活用することで得られる長期的なメリットについても目を向けてみてください。人材不足等、限られた資源を効果的に活用しなければならない中小企業でこそ生産性を高めるという、本質を理解した真の働き方改革を進めることで、競争力を高めていく必要があるのではないでしょうか。

(野村総合研究所 アナリティクス事業部 久世 理恵子、協力 野村総合研究所 コーポレートイノベーションコンサルティング部 プリンシパル 黒崎 浩)

※1 2019年労働時間等実態調査 集計結果(一般社団法人日本経済団体連合会)
http://www.keidanren.or.jp/policy/2019/076.pdf

※2 「ブラックからホワイトへ!“働き方改革”最前線」 2017年1月12日放送カンブリア宮殿

※3 中小企業白書2018
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap2_web.pdf

※4 ヤフーはなぜ6000人の社員を巻き込む「1on1ミーティング」を続けるのか?(2017年10月4日 ダイヤモンドオンライン)
https://diamond.jp/articles/-/144403

※5 中小企業白書2018
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_3_3_2.html

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