
今や、ビジネス界の共通言語となっている「SDGs」。その視点や考え方をビジネスに導入することは、事業機会の創出や企業価値の向上につながり、ひいては企業の持続的成長に寄与します。すでに進めている企業はどのように取り組み、どのような成果を挙げているのか、日経BPコンサルティング コンサルティング本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタントの石原和仁氏に話を聞きました。
経営トップ発でスピーディーに取り組む
SDGsへの取り組みは、大企業のみならず、中堅・中小企業にとっても持続的に発展していくための有効なツールとなります。ただ、今のところ実践している中堅・中小企業は多くはありません。関心はあってもどのように取り組めばいいのかわからず、手をこまねいている企業が少なくないのです。
まずは、どう始めるか。それが大きな鍵となります。トップダウンでスタートするケースが多い中堅・中小企業の場合、経営者と社員の距離が近いという特質を活かし、とにかく担当部署を作って、始めてみることが漕ぎ出しの秘訣となります。
例えば、老舗の和洋菓子製造販売会社(以下A社)は、明治の創業時から「自然と人との関わり」をテーマにしてきました。持続可能な社会の実現を目指す開発目標であるSDGsが2015年に国連で採択される以前から、サステナブルということを意識してきたのです。こうした創業時からの哲学とSDGsの親和性の高さから、経営者は2016年に数人の担当者を選出してSDGs推進室を作り、いち早く取り組みを開始しました。
初めに行ったのが「SDGsを理解する」ことです。まず、経営層の勉強会を開催し、SDGsの基礎知識を学ぶ機会を設けました。次に、SDGsは全部署で取り組む必要があるため、イントラネットといった社内のコミュニケーションツールを使用しながら全従業員に浸透させていきました。このように意思決定や伝達などをスピーディーに行えるのは、中堅・中小企業ならではの強みといえるでしょう。
A社ではさまざまな活動を行っていますが、全従業員がSDGsを身近に認識するための最大の取り組みとして、豊かな自然が広がる山麓地に本社を移転しました。この地にメインショップや自社農園などを作り、従業員自ら田んぼや畑を耕し、森づくりに携わっています。「自然を愛し、自然から学ぶ」というコンセプトから生まれたこの拠点は、地域住民や農家、学生、研究者ともつながりながら、人と自然の関係を見直し、新しい価値観を探る実践の場として機能しています。こうしたSDGs視点での取り組みは、50年後、100年後を見据えた企業ブランディングにも結びつくといえるでしょう。
成果は業界のイメージアップと人材確保
SDGsの取り組みには、明確なルールがあるわけではありません。そのため、進め方について難しく考えてしまうケースも見受けられます。そこで、建築資材の産業廃棄物処理業を営む従業員数90名ほどの企業(以下B社)の事例をご紹介しましょう。
B社は1999年に設立された会社ですが、当時は産廃の不法投棄が大きな社会問題となっていました。こうした時代背景と業界では後発企業であることから、自社の事業を環境ビジネスと位置づけ、産廃処理を通じて資源循環型社会の構築に貢献し、環境を創造する企業をめざすことを基本理念としました。
設立当時から環境への配慮として産廃のリサイクル率を上げることを目標としてきたB社では、経営者が中心となって2019年からSDGsの取り組みをスタート。社会貢献に加え、産廃事業者に対するイメージアップもその目的としていました。
取り組みの進め方としては、自社の事業や活動がSDGsの17のゴールのどれに関連しているかチェックすることから始めました。例えば、設立当初から継続してきたCO2削減の取り組みは、ゴール7、8、11、12、13、15に当てはまり、障がい者や高齢者を積極的に雇用するといったダイバーシティの取り組みは、ゴール1、4、5、8、10、16に該当するというように紐づけていったのです。この作業により、自社の強みや得意とする分野と、足りない分野を可視化することができました。さらに、新たな視点で取り組みを見直し、今後取り組むべき課題を見出していきました。
一方で、従業員にはSDGsに取り組むことによるメリットを示し、社内の意識を高めていきました。B社では「まずは、やりやすい取り組みから始めて、徐々に広げながら、社内の体制や推進方法を構築する」ことが進め方のポイントであると実感したようです。
実際の取り組みとしては、バリューチェーンにおいての省エネによるCO2削減をはじめ、受託廃棄物のリサイクル率向上、廃棄物が広域移動される場合には輸送を鉄道や船舶で行うモーダルシフトの推進、ドライブレコーダー等による車両のエコドライブ・安全運転管理などを行っています。
こうしたSDGsの取り組みにより、環境に関心がある人材への訴求ができ、応募者が増加して複数の採用実績につながりました。
パートナーシップでSDGs達成に貢献する
最後にご紹介するのは、SDGsの取り組みを世界に広げている企業のケースです。人口増加などにともない、全世界の自動車の保有台数は13億台に上るといわれています。しかし、使われなくなった自動車をリサイクルするためのインフラが整備されている国は多くありません。1969年より自動車リサイクル業に携わっている従業員数80名の企業(以下C社)はこの問題に着目し、2007年に自動車リサイクルの技術を学ぶことができる研修センターを設立して、日本国内だけでなく海外の人々の教育も担ってきました。
また、昨今注目されているサーキュラーエコノミー=循環型経済の実現には、ものを製造する「動脈産業」だけでなく、作ったものを後始末し、循環させる「静脈産業」の存在は不可欠です。その責任を果たすため、50年以上に渡る事業期間を通じて、自動車解体から部品流通に至るエコシステムを構築しました。これを世界各国に輸出し、環境問題解決に寄与しています。
具体的な取り組みとしては、ゴール12「持続可能な消費と生産」、ゴール8「すべての人々に働きがいのある人間らしい雇用」の達成に向けて、新興国・発展途上国に対し、自動車リサイクル政策の立案サポートを行い、自動車リサイクルの工場設備、生産工程、リサイクル技術・経営ノウハウを総合した自動車リサイクルシステムの提供を行っています。また、現地の中小企業やエンジニア、廃車回収業者などと連携してバリューチェーンを構築することにより、現地の雇用創出も目指しています。
C社のSDGs取り組みのポイントは、自社で築き上げたノウハウを独占するのではなく、それを世界に提供していくということです。まさに、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」に関わる取り組みといえるでしょう。
今後、世界のビジネスモデルは、「無駄・廃棄と汚染のない世界をデザインする」「製品と原料を使い続ける」「自然のシステムを再生する」ということを原則とするサーキュラーエコノミーへと転換していくと考えられます。そうした中、SDGsへの取り組みは、中堅・中小企業にとっての「勝ち残り戦略」となるでしょう。他社の取り組みを参考に、外部のソリューションなどを活用しながら、まずは行動を起こすことが重要です。
取材・文:後藤かおる/監修:日経BPコンサルティング コンサルティング本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント 石原 和仁氏
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